2009/9/5
オモイカネ
10-3
電車には、僕の他に何人か、大人の人たちが乗っていた。大きな荷物をもったおばあさん。やっぱりクワやカゴなどの農作業をするための道具を持っている人もいる。
窓の外を眺めていると、遠くに家の明かりが見えた。
「右、右、街灯……」
僕は、忘れないように、もう一度つぶやいた。
一つ目の駅を過ぎたところで、ふと、しょうたがくれた草のことを思い出した。僕はずっと、右手ににぎりしめたままだった。
それはツリガネソウに似ていた。でも、花の色は青い。そして、青い花の中に、小さな白い実がついていた。
「おやまぁ、めずらしい……」
すぐ隣から、おばあさんの声がした。
僕が顔を見ると、にっこり笑って
「それはねぇ、オモイカネっていうんだよ」
「オモイカネ?」
「そう」
「大事な気持ちを伝えるときに、使ったもんだ」
「大事な気持ち?」
「そう。なかなか言えない、大事な気持ち」
僕はふと、べんてん池の上で、しょうたが何かをいいかけたのを思い出した。そういえば「あとで」とか言ってたな。
「あのう、あとでって言われたんですけど」
「そうね。後で、静かなところで、その実をつぶしてごらん。こうしてね……」
おばさんは、両手を合わせて拝むようなしぐさをした。
電車が駅に着いた。
僕は、右の扉から出て、一つ目の角を右に曲がって、遠くに見える街灯を目指して歩いた。