2009/9/5
第十章 かば山
10-1
池は思ったよりも深くて、池の底で体をぶつようなこともなかった。
僕たちは、さおにつかまったまま、池のふちまで引っ張ってもらった。ふと気になって、水鏡をさがしたけれど、もうどこにも見あたらなかった。
水を飲まないように気をつけていたから、人間のままだ。
池からあがると、すぐに女の人がやってきて、大きなタオルで僕をつつんでくれた。
「あんた、ここらの子じゃないねぇ。すぐ、帰してあげるでねぇ」
そう言われたとき、どれくらいほっとしたことか。
すぐ隣では、しょうたが大声で叱られていた。
「お前、なにをしたかわかっとるのか! よその人にまで迷惑かけて!」
「でもほら……」
しょうたが鏡を出すと、しばらく黙って見つめていたが、やっぱり怒り出した。
「ほらじゃねぇ! これはこれで良かったけど、そういうことじゃないだろう!……」
「だけど、父ちゃん……」
「だけどじゃねぇ!」
さっきしょうたに声を掛けたのは、しょうたのお父さんらしい。
そんな騒ぎはよそに、女の人は僕を連れて、そのまま池から離れようとした。
このまま帰っちゃっていいのかな……。そんな気持ちが、僕の足を重くした。僕が振り向くと、しょうたと目があった。
しょうたは、たっと走り出すと、ぐるっと池を回ってほこらの近くで一度しゃがみこんだ。
「こら!」
しょうたのお父さんが大声を出したけど、そのまま、僕の所にやってきて、だまって一本の青い花を差し出した。
「これなに?」
「あとで……」
僕が花を受け取ると、女の人が
「いいんですか……」
と誰かにたずねた。
「まぁ、かみむすび入っちゃったからしかたないだろう。それより早く……」
女の人に背中を押されて、また僕は歩き始めた。