2009/9/5

9-3

 空を飛んでいた。生まれて初めて、空を飛んだ。
 興奮して、つい手足を動かしそうになった。
「おとなしくしてろよ!」
 しょうたに言われて、じっとしていることにした。
 水鏡は、山の斜面に添うようにして、ゆっくりとすべるように動いている。
 しょうたをみると、ゆっくりと手を動かして、体の向きを変えている。僕もやってみた。
 全部見える! 山の向こうの、そのまた向こうには、ちらりとだけど海も見えた。
 お日様は、ふもとの向こうの山の中に消えていこうとしていた。反対側の空は、もう暗くなりかけて、星がいくつか見えた。
 ちょんちょんと肩をたたかれて、しょうたに呼ばれた。見ると、手に鏡を持っている。
「これで、さいごだ」
 にやりと笑った。
「まず、ちょっとこっちに来て」
 しょうたは、僕のてぬぐいを引っ張ると、水鏡のすみっこに連れて行った。水鏡は、なんとなく平べったいレンズのような形になっていた。すみの方は、厚みが薄くてちょっと怖い。
「いいか。今から俺がいいって言うまで、そこにいろよ」
 うん。
 僕がうなづくと、しょうたはするするっと僕から離れて、鏡を持った右手を水の中から出した。
「ずっと、鏡を見てろよ」
 しょうたが鏡を動かすと、シルエットになりかけた黒い山並みが映り込んだ。さっきまで、僕たちがいた、あの山だ。そこに、さぁっと夕日が差し込んで、山の輪郭が浮き上がったと思ったら、鏡の中に一本の輝く筋が残っていた。

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