2009/9/5
乗る
9-2
もう、しゃぼん玉は僕たちのすぐ横にある。顔を近づけると、自分のすがたが、ぐにゃりとゆがんで映っているのが見える。そのとき、吹き上げるように強い風が登ってきて、しゃぼん玉をふわりと上に押し上げた。
「急げよ! でもそうっとだぞ!」
しょうたがしゃぼん玉の中に、するりと体をすべりこませた。
僕も続こうと思ったけれど、一瞬、体がこわばってしまった。だって、足下にはなにもないんだ。しゃぼん玉に入るっていうことは、崖から飛び降りるのと同じじゃないか!
そんな僕の目の前で、しゃぼん玉はしょうたを載せたまま、ふわわっと浮き上がって、僕をおいてすーっと空に向かって登っていってしまった。
しょうたは、しゃぼん玉の中でくるりと向きを変えると、僕のいるほうに顔をだして叫んだ。
「早く登ってこい!」
もちろん僕も、あわてて追いかけた。しゃぼん玉は、ゆるゆるとスピードをゆるめて、とちゅうでで止まってくれた。
なんとか追いついたので、今度はためらわずに、するりと体をすべりこませた。もちろん、下は見ないようにして。
それは、しゃぼん玉というよりも水のかたまりだった。大きな水のつぶだ。
僕は水を吸い込みそうになって、あわてて息を止めた。しょうたは僕をぐいっと引っ張ると、上の方に向かって泳いでいって、空に向かって顔を出した。僕もとなりに顔を出した。
「フウ」
とため息をつくと、風が吹いてきてふわりとゆれた。そして、すうっと上にあがる。
「じっとしてれば、大丈夫だから」
しょうたがほっとした声で言った。
確かに、体全体を包まれている感じがして、怖いという感じはしない。
「これ、水鏡っていうんだ」
僕は、わかったというつもりで、うんとうなづいた。
「さぁ、そろそろだぞ、おとなしくしてろよ」
下の方から、大きな力のかたまりのような風が吹いてきた。水鏡は、ぶるるんと全身をふるわせて、すうっと岩肌のてっぺんから空に飛び出した。